ぶっちゃん 556 クライエントさんではありません

こんにちは。今日はマンション管理業のぶっちゃんさん(推定年齢70歳 小柄 痩せ型 男性)について書かせてください。

私はプライベートで引っ越しをしました。引っ越し先は古いマンションの1階です。慣れないことばかりでいる時に管理人さんのぶっちゃんさんにゴミの捨て方やこのマンションのルールなどを教えていただきました。

私はよくクライエントさんに「お日様を適宜に浴びると気持ちいいですよね」なんて話すのですが、犬の散歩以外はインドア派の極みです。

朝の日差しが眩しいとすぐに起きてしまいます。なので、カーテンは遮光1級のもので真っ暗な環境がないと寝られず、時折旅行先などでは本当に困り、アイマスクが欠かせません。それに、私は空想の世界に耽溺していたいことがあり、現実的なことや時間に縛られた生活から時々置いてきぼりになる時もあります。

引っ越し先の両隣は倉庫で、私も倉庫に住んでいます。左の倉庫はぶっちゃんさんが任されて管理しています。私寝ている朝5時頃…ガラガラゴーン!という音がして、何?雷?と思って外に出るとぶっちゃんさんがマンション中から出たゴミを整理しているのです。私はパジャマ にガウンですっぴん眼鏡のまま「ぶっちゃんさん?おはようございます」と声をかけます。「はいよーおはよー」ぶっちゃんさんは朝から元気です。

もう一回寝ようと思ったのですが、ぶっちゃんさんの笑顔があんまりにも素敵だったので(お忙しいですか?もし良かったらマンションのこととかお聞きしたいんですが…) オレンジのキャップ姿の笑顔で「うん、お宅の前に住んでた人はねぇ、祭りが大好きでねぇ、いつもマンションの前で真夜中まで酒盛りしてたんだよ。外でカラオケしてまでたんだよ。冬場なんてストーブ出してみんなで騒ぐもんだからねぇ。ボヤも出してそりゃクレームも来てたねぇ」(えぇっ!事故物件的な?)「大丈夫大丈夫。心配ねぇって。色んな人が住んでんだよ。新宿なんだから。夜のお兄ちゃんもお姉ちゃんも赤ちゃから年寄りまで…保育の先生も社長も肉の卸屋も同じところに入ってるんだから」と年齢に不相応で本当に肌艶の良いぶっちゃんさんが言います。お邪魔すると悪いので、しばらくパジャマにガウンを着たまま外でぶっちゃんさんの仕事っぷりを見ていました。保育園に向かう子どもとお母さんは「おはようございまぁす」ぶっちゃんさん「はいよーおはよー」次に会社員はぶっちゃんさんに黙って手を上げ会釈します。反対のお隣さんや社員さんはマンションのテナント倉庫にご出勤。クロネコヤマトさんの緑の手押し車も来て、スーパーに向かうトラックも目の前を通り始めます。

ピッピー…ブーン…デイケアのお迎えの車も来ます「おはよー行ってらっしゃいー」デイケアの利用者さん「行ってきますー」。

朝帰りのお兄さんに「お疲れ様〜今日もお客さんに呑まされたの?」お兄さん「はい…仕事っす…お疲れっす」。ぶっちゃんはテキパキニコニコ笑顔で週末に溜まったゴミを分別しています。(大変ですねぇ。こんなにいっぱい!)「んなぁ〜どうもねぇ〜もっと大変なマンション他にもいっぱい行ってるんだから」とのことです。

急にぶっちゃんさんが大きな声で「おっ、来た来た!」と言うのです。(え?)「鉄くず屋のお兄ちゃんの車だよ。あぁ〜ひと回りしてまた戻って来るんだなぁ」見るとトラックに古い自転車とか使わなくなった冷蔵庫やレンジが沢山乗ったトラックが通り過ぎて行きました。

その後、マンションに違法投棄された信じられない量の粗大ゴミをぶっちゃんさんがそのトラックに積み込みます(大変な仕事だなぁ…)。私は使わないけど置き場もないし棄てられない椅子に困っていることをぶっちゃんさんに相談しました。「心配ねぇって。用事ある時少し位預ってやるよ」(良いのかなぁ…)その後、ぶっちゃんさんは自転車を点検しています。(自転車整備もお仕事なんですか?)「違う違う!これはさっきのトラックの人と交換したんだよ。このマンションに鉄のベッドとか捨ててく人がいるからそれを倉庫に取っといてんだよ。最近はすぐ引っ越しだからって何でもかんでも捨てちゃうから、もし自転車を捨てちゃう人がいて程度の良いのがあったらもらえるように頼んでたんだよぉ」(やったぁ!じゃあこれぶっちゃんさんの自転車になったっていうこと?)「そうそう!」(ぶっちゃんさんにはちょっとサドルが高いから下げよう)「どうもねぇって。心配ねぇって」(いやいや足はぺったんこについた方が良いって)と話しながら、私は自分がパジャマにガウンということを忘れてしまい、ほとんどぶっちゃんさんとは身長が同じだからサドルを一番低くして、ぶっちゃんさんのものになった自転車でくるりと道をひと回りしました。パジャマにガウン。ぶっちゃんさんはライトやギアやブレーキを確認して「556!556!」とスプレーをひと吹きします。(ぶっちゃんさん乗ってみて)「うん。こりゃ足もついて丁度いいや」とマジックテープの靴で嬉しそうにトントン足をつけて試乗。目の前の自転車屋さんで防犯登録して管理会社のシールを貼って、ぶっちゃん号完成!ハイタッチ!

(ぶっちゃんさんはこの自転車でどこに行くんだろう)ってぼーっと考えていただけなのに、ぶっちゃんさんは心配してくれたのか「自転車ないの?今度ねぇちゃんのも頼んであげよっか?この自転車一緒に使うか?」と言ってくれました。(自転車あります。ありがとうございます)私は屈託ない笑顔とみんなから愛される、みんなが喜ぶように自然と振る舞うことのできるぶっちゃんさんみたいな人が大好きなんだな…。

ガラガラゴーン!って音がしてもぶっちゃんの印だと思うと安心出来ます。で、私のピアノの爆音でもぶっちゃんさんのお仕事部屋に響いてしまうのではと心配になり「うるさくないですか?」ってお聴きしたところ「何もねぇ。心配ねぇって」言ってくれるぶっちゃんさんみたいな方が管理人さんで良かったし、ぶっちゃんさんのようになりたいと心から思った次第です。ぶっちゃん号はどこに行くのかなぁ…ガラガラゴーン!が聴こえたらまたぶっちゃんさんとお話出来ると思うと楽しみです。

ぶっちゃんさんに職業を訊ねられたので「臨床心理士」とお伝えしたのですが、ぶっちゃんさんは「あぁ病院の検査技師さんかぁレントゲンの…」(えっとこころの方なんです)

「あぁ占いかぁ…人のミライのね…ピアノあるからピアノの先生ってみんなに言っちゃったよ」(ピアノは永遠に弾けないので生徒なんです)「そっかぁ心配ぇって。ピアノが置いてあるんだから誰も分かりゃしないって」

(隣の方にそう言えばセンセイって呼ばれた!まずい…センセイではない)

ぶっちゃんさん、どうぞこれからもよろしくお願いいたします。