paper client 撫子さん

撫子さんは30歳代の女性です。ある日のセッションの終わりかけに「山手線に飛び込むか風俗に行くかしか選択肢はなかったんです」美しい撫子さんからのひとことに私は仰天しました。私は「そうですか。それでも今を生き延びる場所として … “paper client 撫子さん” の続きを読む


撫子さんは30歳代の女性です。ある日のセッションの終わりかけに「山手線に飛び込むか風俗に行くかしか選択肢はなかったんです」美しい撫子さんからのひとことに私は仰天しました。私は「そうですか。それでも今を生き延びる場所として風俗のお仕事を選ばれた」と応じました。「今を生き延びる能力」の大切に関しては、医学書院のケアをひらくシリーズ上岡晴恵+大嶋栄子さんの「その後の不自由」という本で読んで感動したことを覚えております。

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私の受けた撫子さんの第一印象は「今刹那を一生懸命を生きている」というものでした。豊かな黒髪の瞳のまっすぐな女性です。撫子さんの一生懸命の瞳の先は、常に皆が不快にならないかを直感的に見つめ振る舞います。カウンセラーの私にもいつもお気遣い下さります。そんな撫子さんのお話を今日はお話させて下さい。

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撫子さんには特技があります。それは「人のこころ」「場の空気」を一瞬にして察知する能力です。その空気を「ご自身のためではなくその場にいるみんなが心地よく過ごせるように察知している」ところがポイントです。私がセラピストとして知りたかったことはそのような振る舞いを提供している撫子さんご自身の感情は何処に向かいどのように対処しているのだろうということです。撫子さんから本当に多くのことを教えていただいております。

私たちはすぐに規範や価値判断に基づいて発言することが多いと思います。

血液型は?出身地は?宗教は?出身大学は?仕事は?アニメ好き?精神科を受診しているの?セクシャリティは?

その答えの裏側には重要な情報収集があるかもしれません。お茶の間の話題の提供に貢献してくれることもあります。しかし、その情報からわたしたちは「風俗?」「T大なの?」「メンタルの薬を飲んでるの?」「あの人って◯型何だって」「あの人ってボーダーじゃない」「アダルトチルドレンじゃない」「◯教なんだって」その先にはその人なりの「価値判断」があるのではないでしょうか。「風俗で務めるって病んでない?」….。「T 大なんてすごーい!」「精神科を受診しているんだって」「アニオタなんだって」「ボーダーラインなんだって」などなど。

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(私はメンタルとは無縁だけどね)(かわいそう)(T大だって)(◯教かぁ)(私はわかんない)(無理じゃない)…。

私の答えは次の通りです。「それで?それが?」

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It is none of my business.それは私の仕事ではありません。

ご相談者さまにひとりとして同じ方は存在しません。カウンセラーも「ひとり」。クライエントさんも「ただひとり」そしてそこから生まれる二者関係もただひとつunique oneの関係なのです。血液型や疾患名や世間の価値観やアカデミズムで括ったならその方らしさは一瞬で掻き消されてしまいます。

撫子さんの今を生きるために風俗のお仕事を選ばれた選択を「私は」素晴らしいと感じています。そして、刹那を生き延びた撫子さんがご自身でご自身の道をご自身の信念に基づいて選択されていかれることを応援しております。

価値判断をしないことは自分の考えを持たないことではありません。

しかし、価値判断をする前に、まっさらに目の前の方や事象と向き合うことによってこそ、私たちの視野が広がるのではないでしょうか。

撫子さんは何時も一生懸命に目の前のことに生きていらっしゃいます。澄んだ瞳は穢れを知りません。たった今を一生懸命に生きていらっしゃる撫子さんはとても素敵です。

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「価値判断を傍に置くこと」は専門職同士でもなかなか理解していただけないことが多いし、ご相談者さまからもご質問されることが多いです。「小澤さんはどう思う」と。私はカウンセリングの中で自分のなるべく答えは出さないように気をつけることにしています。

その理由はご相談者さまの自己決定権選択を大切にしたいからです。

一生懸命にたった今を生きていらっしゃる撫子さんのご活躍を陰ながら応援させていただいております。

次回のお約束をした後、凛とした表情で新宿の夜にお出かけになりました。

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撫子さんの大きなカバンの中には豊かな感受性とそれに伴った空虚感をもご自身のものにする底力と今日を生き抜く力と明日の夢と希望がたくさん詰まっていることでしょう。

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Ave Maria

こんにちは、mimosaの日も過ぎ、3月も気付けば中旬に入りました。 今日はAve Mariaをこころの音楽から考えてみたいです。 Ave Mariaの音楽はたくさんあります。バッハの平均律の1番にグノーがメロディを乗せ … “Ave Maria” の続きを読む

こんにちは、mimosaの日も過ぎ、3月も気付けば中旬に入りました。

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今日はAve Mariaをこころの音楽から考えてみたいです。

Ave Mariaの音楽はたくさんあります。バッハの平均律の1番にグノーがメロディを乗せたものも有名だし、他にも多くあるのですが、私には思い入れもあって、1番好きなのはシューベルトのAve Mariaです。

私はカトリックの女子校に通っておりました。

その高校では全ての授業の前のチャイムがAve Mariaでした。Ave Mariaのチャイムが鳴っている間は耳を澄まして沈黙の祈りを捧げるのです。チャイムは約1分程度続きます。

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高校生の私はエネルギーが満ち溢れておりました。そのエネルギーは時に鎮めることによって優しさに変えることが出来るのかもしれません。

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落ち着きがなく、教科書忘れも多かったし、どうしてこんなに長いチャイムなのかなぁとよく考えていました。

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あれから本当に長い時間が経過しましたが、今、私のこころでは、落ちつきたい時にAve Mariaのチャイムを流すことが出来るようになりました。

当時の私にはわからなかったことが今になってこころの音楽になっています。

特にピアノの先生が演奏会で弾いて下さったシューベルトのAve Mariaをリストが編曲してくれたものは別格に好きで忘れることができません。途中からキラキラピカピカっと旋律が流れる中、左手は落ち着きと調和でメロディを支えます。

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こころに音楽をもつことって素晴らしいことですね。

あるクライエントさんのこころの音楽は演歌です。人によっては音楽ではなく絵画を思い出し、また別の方は、大切な方からいただいた言葉が辛い気持ちや、つい焦ってしまうときの「こころのお守り」になります。

音楽、キレイな景色、音楽、大切な思い出…。

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そんなこころのお守りをもつことは辛い時に私達を守ってくれる大きな存在になり得るのかなぁと考える今日このごろです。

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お読みいただきありがとうございます。

 

 

 

 

 

 

 

2月3日サントリー文化財団山崎塾「知の試み研究会」

2017年2月3日、大阪アナクラウンプラザホテル「平安の間」にて、サントリー文化財団 山崎塾「知の試み研究会」にて解離性障害に関する発表の機会をいただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。  

2017年2月3日、大阪アナクラウンプラザホテル「平安の間」にて、サントリー文化財団 山崎塾「知の試み研究会」にて解離性障害に関する発表の機会をいただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

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鶴の恩返し

こんにちは。だいぶ日照時間が長くきましたね。春を感じる今日この頃です。花粉症の方にとっては辛い時期に入りました。どうぞご自愛ください。あっという間に音楽教室前のミモザも満開に近づいて参りました。 昔から木の芽時という言葉 … “鶴の恩返し” の続きを読む

こんにちは。だいぶ日照時間が長くきましたね。春を感じる今日この頃です。花粉症の方にとっては辛い時期に入りました。どうぞご自愛ください。あっという間に音楽教室前のミモザも満開に近づいて参りました。

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昔から木の芽時という言葉があるように、春は年度末や新学期など大きな変化が生じます。この時期は身体に限らずメンタルの調子も崩しやすい時期でもあります。img_2310

お気持ちの状態をご自身でモニタリングできることは、 心身の健康状態に早く気づき対処出来うるという点でとても大事だと思います。

img_2540さて、今日は鶴の恩返しの主人公の「鶴女房(つう)」と「与ひょう」の関係について考えてみたいと思います。

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幼少時、鶴の恩返しや幸福の王子様のお話はとても悲しくて…何度も涙していました。フランダースの犬もあんなに報われない話はあるのだろうかと思っていました。その悲しさと理不尽感さに何度も涙し…立腹し…物語の「明るい続き」をひとり空想の中で作っていました。

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最後に羽を全て失い人に尽くした鶴は、仲間と共に旅立ちます。そんなのイヤだ!私の空想が始まります。鶴は痛々しい死を迎えたのではなく「幸せな」次のステージに向かい、仲間達に囲まれて無尽蔵の羽を授かるというような空想です。そしてそこでも鶴はみなに羽を手折ってみなに分け与えます。空想上の羽は無尽蔵にあるので困った人を助けることが出来るし、鶴も心の底から幸せになるというような未熟な空想でした。

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今、大人になってしみじみ考えることがあります。「つう」は「与ひょう」に助けてもらったことを感謝しています。「つう」にとってそれは何にも変えがたい歓びだった。「つう」は困っている「与ひょう」に感謝するには「自分の身体の一部である羽以外」の何も持ち合わせていなかった。人から見たら「つう」は自分のことを犠牲にし、大切に出来ていなかったかもしれない。でも、それは「つう」にとって「幸せな」ことだったのかもしれないし…誰かがそこに価値判断をすることは望ましくないのかもしれません。

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これを美徳や愛他性と捉えるか、自虐と捉えるかについて…かの有名な精神分析家の北山修先生は「自虐的世話役」と言う概念で考察されています。

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自虐と愛他の間…揺れ…それらは連続して繋がっています。時には誰かを愛し過ぎたり…尽くし過ぎたり…。度が過ぎると「自虐的世話役」になるし、ほどほどだと「愛他性」という世間でいう「美しいこと」につながるのかもしれないというのが北山先生の仰りたいことではないかと「私は」考えています。

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しかし、改めて考えてみると…。私はその「愛他性」が「与ひょう」にだけでなく万人に向けられることの出来る人が稀にいるのではないかと考えています。素晴らしい!人には優先順位があります。それは、まずは自分を大事にすること、パートナーや家族を大事にすることかも知れません。それはもちろん大切にしつつも私は多くの方々に惜しみなく愛も届けることの出来るカウンセラーにいつかなりたい。しかし、それは不可能な位難しいことです。なぜならカウンセリング自体が「無償」ではないからです。倫理的にジレンマだらけのこの仕事を私は「自ら」選びました。その限界の中で出来る限りのパフォーマンスを発揮することが私の努めです。

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私自身未熟者過ぎるから…人間としてのキャパシティを育み、学問上のスキルも磨いていきながら、クライエントさんとの「ただひとつ」の関係を大切にして臨床に取り組みたいと考えています。

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お読みいただきありがとうございました。

こころに花を!

こんにちは、寒くなったり花粉も飛び出しました。 ポーリンパワー!   いよいよ春です。 私の中で春といえば「花」です。 梅や桃や桜などお弁当を作ってお花見に行きたいです。 しかし…今は多忙過ぎる自分制御出来ていません。 … “こころに花を!” の続きを読む

こんにちは、寒くなったり花粉も飛び出しました。

ポーリンパワー!

  いよいよ春です。

私の中で春といえば「花」です。img_2335

梅や桃や桜などお弁当を作ってお花見に行きたいです。

しかし…今は多忙過ぎる自分制御出来ていません。

時間を大切に出来ていません。

img_2047久しぶりに雪が溶けた!キレイな空!

img_2312雪解けの下には楽しみにしていた水仙の花が…。

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これはひどい。雪の仕業とはいえ許さない!

そっと立て直してみました。

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植物の花は目に優しい。嗅覚も覚醒します。そして音の花は心に響きます。しかし、カウンセリングの中でのクライエントさんとの会話は私にとって何にも勝る財産です。カウンセリングってまだまだ世の中的にはネガティヴな印象を持たれているし、カウンセリングにお金を払って通うという感覚は浸透していません。img_2136

クライエントさんとの出会いや別れは必ずしもハッピーエンドとは限りません。涙に霞んで見えなくなることだってあります。カウンセラーなりたての頃、最後のセッションに小さなプリザーブドフラワーをクライエントさんにいただいたことがあります。それはそれはとてもキレイで小さな可愛らしいバラでした。

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この小さきバラはもちろん、しかし、それ以上にそのクライエントさんと交わした会話とその時の感情と情動が私の中ではどんなことよりも大切に保存され続けています。

どうしてそんなに悲しいの…。どうしてそんなに怒ってるの…。どうしてそんなに笑顔なの…。今日は何があったんでしょうか。異動が決まり引き継ぎの日、「私と小澤さんはもう会うことはないかも知れないけど…。ふたりの関係はプリザーブドされます」。私が彼女との別れを悲しんでいることを彼女は知って…お心遣いをくださったのかもしれません。未熟なカウンセラーです。

クライエントさんとのセッションは

プリザーブドされつつ、たった今も

心臓と同じようにこころもずっと形も大きさも変えながら動きつづけています。

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自分のこころのドキドキを知ってみることで見える景色がグーンと変わります。昨日のドキドキ、今日のため息…。時には生きる希望を失いかけることも、生きている意味を見失うことだってあるかも知れません。

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そう、でもその大変さを持っているから、知っているからこそ体験出来るワンダフルな世界があると…私は思います。

人生イロイロ。見え方もイロイロ。ネコだって色々。

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久しぶりにNicolai Bergmannの南青山店に目の保養のためにvividな花を模索しに行ってみました。自然で咲く花との対比…brilliantな色合い…抗しがたい魅力です。うーん彼はかっこいいぞ‼︎スムージーも美味しい。でも時間がない。途中でストローが詰まってフタを開けてそのままゴクゴク。こっちの方がいい。

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img_2367 img_2369そしてマインドフルに選んだ花はこちら

全然vividではありませんね。

プリザーブドフラワーも購入しましたがまたの機会に。

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お読みいただきありがとうございました。

 

その手を離すな!

こんにちは!いよいよミモザmimosaの開花です。mimosaの花言葉は豊かな感受性とかプラトニックラブとかそんな感じだったかな〜。mimosaの咲き方って本当に素敵で…こころの電球みたいって思います。いつか家を建てられ … “その手を離すな!” の続きを読む

こんにちは!いよいよミモザmimosaの開花です。mimosaの花言葉は豊かな感受性とかプラトニックラブとかそんな感じだったかな〜。mimosaの咲き方って本当に素敵で…こころの電球みたいって思います。いつか家を建てられたら、mimosaを植えてみたいです。

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ところで先日はAEDの使い方と人工呼吸の練習をしてきました。傍観者になっていたらまさかの全員強制実施。医療従事者として当然ですね。メディカリーな心理士になりたいですし。

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会場には1分間に100回刻むメトロノームが流れており56名のメンバーが4人のグループになり、1人が心臓マッサージを100/bpmで行います。1分間で100回は歌で考えると良いとYouTubeにあるよと友人から。命を救う歌、うさぎとかめの歌、あんたがたどこさ、ひごさ〜…それをりょうしがのところで人工呼吸1回。定期的に鼻をつまんで気道確保して息を吹き込む人工呼吸を行うんですがまぁ大変。そこは絶対途切れずに指示出しします。「あなたAEDの機械お願いします」「あなたQQ車を呼んで下さい」

いよいよ私のテストの番です。ドキドキ!

アナタ救急車お願いします。アナタAEDを持ってきて下さい!え!え!えぇ〜!「あんた、何でいちいち手離すの!離したら正しく胸骨圧迫出来ないじゃない。肘が曲がってる!」と先生からご教授。

待てよ!待てよ!

キターアハ体験

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それって私のピアノが上達しないことと全く同じじゃないか。それだ。胸骨圧迫練習人工呼吸の練習させてとみんなに頼んだら「バカ者!キモイ」とドヤされました。

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仕方ないから愛犬ドミンゴに人工呼吸をやってみた。可愛そう。大人しく仰向けになって付き合ってくれました。

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そう、その手を離してはいけない。こころも一緒かも知れない。

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ソノテヲハナスナ。ハナスナソノテヲ。ソノキモチモハナスナ。

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オザワ、お前ワやれば出来るじゃないか。と言われたいです。

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お読みいただきありがとうございました。ドミンゴごめん。

 

Paper Client “uncle Ken”

こんにちは。冬から春へ一気に移行中ですね。紅梅も咲き出しました。 梅春物の季節には何を着て良いか毎日苦戦します。新年度を迎えるにあたり体調もこころも崩しやすい時期なのでお互い気をつけましょう!今日は小さい頃にお会いした不 … “Paper Client “uncle Ken”” の続きを読む

こんにちは。冬から春へ一気に移行中ですね。紅梅も咲き出しました。

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梅春物の季節には何を着て良いか毎日苦戦します。新年度を迎えるにあたり体調もこころも崩しやすい時期なのでお互い気をつけましょう!今日は小さい頃にお会いした不思議なおじさんについて懐かしむ大分脚色したお話をさせて下さい。今日は臨床コラムになりますのでご気分の優れない方はスキップして下さい。

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ケンおじさんの話

私が小学校2年生の夏、子どもたちの集合場所だった川添いの原っぱで初めて自称「ケンおじさん」にお会いしました。ドラエもんに出てくる場面じゃないけど…。その原っぱには小学校低学年の子どもなら3、4人ほど座れる土管が五本横わっており、他にも工事用の金属片やブロック、フェンスなんかが並んでいました。春には土筆や野蒜なんかも見られる野良猫や私たち子どもたちには格好のほのぼのした原っぱでした。

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小学生にとって夏休みって本当に長くて…ラジオ体操に行ったり、日記を書いたり、ヒマワリの大きさを測ったり…元気があり過ぎてヒマを持て余して毎日外で刺激を探し求めておりました。誰と約束があるでもなくフラフラしていると、子ども仲間がいつの間にかその原っぱにはいました。私は両親が共働きなこともあってその原っぱで日中のほとんどを過ごしておりました。時々その原っぱの関係者の方に「勝手に入るな。子どもには危ないものがいっぱいあるんだぞ」とお叱りを受けておりましたが、まぁ理解のある大人達でそれ以上何も言われませんでした。ネコとヒマな子ども達しかいない平和な原っぱにある日突然ヨレたスーツのシャビーなおじさんが現れました。

ケンおじさんです

私は警戒のない子どもでした。原っぱの見張り番だったし、おじさんでも子どもでも同じ条件です。まず名前を訊ねました。「僕はケンおじさんです」とだけ教えてくれたあと、自分の上着を顔に被って靴も脱いで土管の日陰で寝てしまいました。で、私は千咲だと名乗りましたが、ケンおじさんは反応もなく気だるそうに土管の狭間で上着を被ったままゴロゴロしていました。眩しくて暑い夏の日。えっと、当時の私の年齢の括りでは大学生まではおにいさん、それ以上はおじさんです。ケンおじさんは今思えば当時多分40歳代後半だと思います。

「おじさんだって色々あるんだよ。ほっといてあげなよ」と友達に言われ、ケンおじさんのことは放置して子ども達はゴム段遊びとか、チョークの落書きとかラジコンとか縄跳びとかいつもの遊びに戻っていました。私も友人との遊びの中に戻りました。

しばらくして友達のクラマが飛んで来て「ケンおじさんがさっき急に起き出して、原っぱの部品でみんなが乗れるトロッコ車を明日作ってくれるって!」って言うんです。

「トロッコって?」私達はウキウキです。ケンおじさんは子ども達に各自家に帰り、自転車の補助輪、クルマの古タイヤ、三輪車、不要な自転車の部品、車を作るのに役立つ部品を探しに行くよう命じました。みんなは帰って色々家を探しました。子どもだからほとんど何も持っていませんでしたが、とりあえず車のついたものやパイプベッドの柵やらを各自持ち寄りました。ケンおじさんは原っぱにあった鉄パイプや弟の三輪車や壊れた自転車のタイヤを上手に積み上げて、古い木材やフェンスと鉄パイプをバラ線でつなげたり、その上に自動車の古タイヤを載せたり、明日はこれをつないでこんな車が完成だ!と赤いチョークで土管の側面に設計図的な絵まで描いてくれました。

img_1422ケンおじさん!原っぱに夢を与えてくれるスター!

そのうち、今日はもう遅いから子どもは帰るようにケンおじさんに言われみんな明日を楽しみに家に帰りました。

しかし、私は変な子どもでした。ケンおじさんがもしも明日いなくなったらどうしようとなんとなく怖くて仕方がありません。

何を思ったのかわからないけど、ケンおじさんに家の押し入れのタオルケットとか自分のご飯をオニギリにしたものとか牛乳とか飲み物とか親の目を盗んでお鍋の煮物を持って、原っぱの土管のところにひとりで会いに行きました。

姿を探すと始めに横になっていた土管のところにケンおじさんはいました。話しかけようと思ったけど少し怖くて、じっと立ってこっそりケンおじさんの様子を見ていました。

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ケンおじさんは上着で顔中を覆ってさっきみたいに寝ていました。(きっとお腹空いてるだろうな)と思い、もう少しだけケンおじさんに近付きました。寝ているように見えたけど、ケンおじさんの上着が動いていて…独り言の声が聞こえました。「違うって言ってんだろう。植林の話は無しだ。酪農の方はトミオカに任せろ…また来たのか!」という感じのひとりごとです。しばらく見ていましたが止まらないので「ケンおじさん、お腹空きましたか」って話しかけましたが、上着を被ったままで「トミオカだろう」と言われてどうしたら良いか分からなくて「千咲です。オニギリ食べますか」って聞きました。ケンおじさんはしばらく無視して話し続けていましたが「トミオカの子どもか」と私に言いました。私は「違います。ごめんなさい」と謝り「でも土管の中に入った方がきっとよく寝れます。いつも私はそうしています。土管は朝が眩しいしそのままだと痛いと思ってタオルケット持ってきました。ご飯と飲み物も持ってきました。明日はケンおじさんの作ってくれるトロッコ車をみんな楽しみにしてるからお願いします」とひとりで一方的に話しかけ、淋しい気持ちで走って帰りました。

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その夜はケンおじさんのことで頭がいっぱいでした。ケンおじさんは誰と話していたんだろう。どうして突然原っぱに来たんだろう。どうしてトロッコ車を作ってくれるなんて言ったんだろう。お仕事で何かあったのかな。何か私悪いことしたかな…。

なかなか寝れなくて朝は眠かったけど、起きてまっすぐに原っぱに行ってケンおじさんを探しました。

そこにはすでにケンおじさんの姿はありませんでした。

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朝になったらケンおじさんがいなくなってしまうことは、理由は分からないけど、うっすらと昨日の晩からわかっていた気がします。でも子どもながらにウソつきだってケンおじさんのことを怒っていました。なんでいなくなったの?朝になったら車を作ってくれるって言ったのに。朝の原っぱには昨日持ってきたタオルケットと、空っぽのお茶碗と牛乳瓶が並んでいました。私達が持って来た自転車や三輪車やタイヤとかは車になるどころか、川添いの柵に見事に高々と括りつけてありました。鉄パイプの上にもタイヤと自転車の一部が巻きつかれており、なんとも言えない不思議で不気味な光景でした。でもある意味で今考えれば芸術的だったのかも知れません。img_1428

「全然車じゃねーじゃん。なんじゃこりゃ。ドリフターズ風に(あ、ヘンなおじさん)まじウケる」とクラマも他の子どもたちもケンおじさんのことは笑って忘れていつも通り遊んでいました。でも私はずっとケンおじさんに怒っていました。ウソつきなケンおじさんが許せなかった。でも、夜にこっそり会いに行ったことは誰にも言えないままでした。

夏休みもとっくに終わったある日、親の帰りが遅くなって、クラマのお母さんがうちでご飯食べていきなよと言ってくれて、クラマはそういう時にはいつも自分の部屋に行ってしまってたから、クラマのお母さんと2人きりになって…勇気を出して、うちのお母さんには言わないで欲しいんだけど…とずっと考えていたケンおじさんの話を切り出し、原っぱであったことを聞いてもらいました。話しているうちに涙でいっぱいになって何にも見えなくなって、上手に話せなくなって、ヒクヒクになって泣きじゃくり「ウソつき、ウソつき、ケンおじさんのウソつき…」とだけ繰り返していた気がします。

気が付くとクラマのお母さんがそばにいて、服には鼻血の跡があって、頭を撫でながらおでこをタオルで冷やして教えてくれました。「千咲ちゃんはなんでも知りたがりるナイーブな子。面倒見のいいお姉さんっていうか。鼻血出してまで泣きながら人のことを心配するって…でもね、それは優しいというよりこれから生きていく上でずっと大変な体験をすることかも知れないってことかもしれないって覚えておいてね。うちのクラマには全くそういうところがないから、足して2で割れたらいいのに…もっと楽に生きていいのよ。子どもなんだから…」「ねぇ、千咲ちゃん。ケンおじさんのことを怒ってるの?おばさんの分かることならケンおじさんのどんなことでも知ってみたい?」とクラマのお母さんに聞かれ大きく頷きました。

「ケンおじさんは昨日みたいに、たまにあそこの原っぱに来るんだけど。こころに病気があるの。長いこと入院をしたりもしているのよ。ケンおじさんは、朝までずっと同じところにいると、色々なことを思い出してとっても怖い気持ちになるから、人に見つからない夜明け前には違うところに移動するの。ケンおじさんはまあるい光ったモノに守ってもらえると信じていて、怖いことがあるとタイヤとかボールとか丸いものや光ったものを集める習性があるんだって。前はおばさんのうちの庭にも勝手に探しに来たことがあって、おばさんも怖いし知らないから一度110番したことがあって。そうしたら警察の方がね、精神の…あ、こころの病気だから署からお医者さんの方に来てもらうっていうことがあったの」「じゃあ私達に車を作ってくれるって言ったのも病気のせいなんですか」「それは…多分ちがうと思うわよ。本当にその時はそう思ったんじゃない。だから今度ケンおじさんに会っても怒らないでそっとしてあげてね。ケンおじさんはあまり話かけられることは好きじゃないけど、もしまた会ってもそっとしておいてあげてね」「おばさん、こころが病気になるってよく分からないけど、それに病気でもウソつきは嫌いです。でも教えてくれてありがとうございます。私、ケンおじさんにいっぱい話しかけちゃいました」。「知らないかったんだから仕方ないじゃない。でも、この話はクラマにもあなたのお母さんにも言っちゃだめよ。おばさんと千咲ちゃんの秘密だからね」とクラマのお母さんは言いました。

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大人になって少しだけケンおじさんの話が分かる気がします。ケンおじさんとクラマのお母さんのおかげもあってこころの不思議な病気について初めて少し知ることが出来ました。

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人には踏み込んではならない聖域があります。私には今でも好奇心や興味からその聖域を知らずに侵してしまうことがあることを反省し気を付けています。私自身が人が大好きで聖域を持たないせいかも知れません。相手にはデリケートな聖域がある前提を持たねば人を傷付けてしまいかねません。人を自分の物差しで測ってしまうことは仕事上ではtabooです。こころの専門家なのにダメだなぁ。でも、そういうことを教えてくれるのって必ずしも学問上の先生やお医者さんとは限りません。私にとってクラマのお母さんはそのひとりでした。

私に大切なことを教えてくれたクラマのお母さんも天国に行ってしまいました。

ケンおじさんがきっとまだどこかの原っぱで車を作ってくれていますように。

クラマのお母さんに慰めてもらったことはずっと忘れません。クラマのお母さんが亡くなったことが信じられないでいることも、手作りのジュースを病気の時に家に持って来てくれたこともずっと忘れないでいたいです。

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長くなりましたが、ケンおじさんの話でした。

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ケンおじさんのますますのご活躍を祈念して…。

長文に付き合いいただきありがとうございました。

今後ともよろしくお願い申しあげます。

トロッコ車に乗りたい春に車窓からのMt.Fuji と♫

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希望と勇気を与えてくれるトルコ桔梗とアネモネの花束と♩

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counseling room Picardy 3rd. 小澤千咲

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スクリブル 引きこもり アネモネ

こんにちは、開花は嘘をつきません。 相談室前の古民家の梅が7部咲きしました。 ウグイスも来訪中です。クライエントさんにもお越しいただいております。しかし、ピアノに嫌われてから私はずっと引きこもって淋しく不貞寝しています。 … “スクリブル 引きこもり アネモネ” の続きを読む

こんにちは、開花は嘘をつきません。

相談室前の古民家の梅が7部咲きしました。

img_1318ウグイスも来訪中です。クライエントさんにもお越しいただいております。しかし、ピアノに嫌われてから私はずっと引きこもって淋しく不貞寝しています。

仕方ないからスクリブルでもして癒そうと試みました。

img_1320癒されるどころか服中クレヨンだらけになっちゃいました。

今日こそは、もうすぐ移転になるらしい

ニールズヤード新宿店に行って

エッシェンシャルオイルを買いに出かけようと思います。

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元気を出すためにアネモネ探しに行く。

外に出るのにこんなに力がいるなんて…。 img_1328アネモネが到着したらこの記事を上げよう。

気分も上げよう!

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ほら出来た!ガーベラもユキヤナギも入れて二重仕立てだ!

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もう大丈夫

お読みいただきありがとうございます。

 

 

商売道具は身ひとつ

こんにちは、少しずつだけど朝日に会える時間が早くなってきました。しかし、大寒を迎えたばかりの寒さはまだまだ本番中です。 私は体調を崩して休んでいました。ショックなことがあると途端に身体化します。微熱と倦怠感と温かい布団… … “商売道具は身ひとつ” の続きを読む

こんにちは、少しずつだけど朝日に会える時間が早くなってきました。しかし、大寒を迎えたばかりの寒さはまだまだ本番中です。

私は体調を崩して休んでいました。ショックなことがあると途端に身体化します。微熱と倦怠感と温かい布団…なんといっても欠かせないのはエッシェンシャルオイル入りの加湿器で湿度を高くして数日間引きこもっていました。

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私は不眠症の気があるのですが、風邪をひいたりすると不思議なくらい眠くなります。真っ暗にして…携帯もタブレットも…別室において独りで寝ます。私のベッドは不思議なロフトベッドです。友人からはよくこんな真っ暗のところで寝ていられるね!と言われます。窓もない狭い部屋でパジャマで鼻をすすってベッドに入るとこのまま誰にも邪魔されたくないとこころから感じます。

加湿器からの時々流れるコプン…プクッ…コポコポっという音が本当に気持ちいい。

KT37.2  インフルエンザnegative 86/bpm  咽頭痛 湿性咳

痰  鼻汁…風邪だと思います。

何度も夢を見ては起きてもう一度寝る。このままがいい。

うぅーんなんて気怠いんだろう。気持ちいい。独りでここにいる。デロンギで部屋の中あったかくて、真っ暗で、コポコポしていて…。しばらく独りでここにいることにします。

寝転んだままタブレットでピカルディバードを書いています。

今日はカウンセラーの魅力について再考したいと思います。

♯1 人と人との交互作用から得られるものに対する魅力。

♯2 psycho dynamics の視点からこころを捉えることの魅力。

出会いのタイミングも唯一無二です。私とのカウンセリングが初めての方もいらっしゃれば、カウンセラーショッピングの果て私が○○人目のカウンセラーという方まで様々です。

2人のたったひとつの出逢いがあって…終結があって…ドロップアウトもあって。私の中の限界設定として頑張りたいことは、クライエントさんにとって、「カウンセリングになんて絶対二度と行かない」というカウンセリングに対するトラウマを与えるようなことです。人間であれば相性もあるし好みも異なります。相性や技法が合わないことは仕方のないことかもしれません。

しかし、カウンセリング自体に対してカウンセリングを超えた失望をさせる権限はカウンセラーにはありません。

努力しても難しいこと、分かり合えないことはたくさんあるのだけれど…。

人を自分の物差しで勝手に価値判断したり、クライエントさんのことをわかったふりをしたり、こういうケースでは…と無意識に他と比べたり…気を付けようと思います。

この世に存在するいのちも、それをとりまく関係性もたったひとつだけです。

松の木も重たそうに頭を下げています。静かな雪はこころを慰めてくれます。雪の下には沢山の春が隠されていることでしょう。まだまだ降り続けて欲しいです。

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お読みいただきありがとうございました。

 

 

 

哀しみに覆われた雪景色

こんばんは、東京はとても痛くて寒いです。今、私のこころはもっと痛くて苦痛に耐えることが難しい状態になっていましまいました。 マズローの欲求階層説では、まず衣食住などの生理的欲求が足り、愛情や帰属意識などのより高次な欲求に … “哀しみに覆われた雪景色” の続きを読む


こんばんは、東京はとても痛くて寒いです。今、私のこころはもっと痛くて苦痛に耐えることが難しい状態になっていましまいました。img_1165

マズローの欲求階層説では、まず衣食住などの生理的欲求が足り、愛情や帰属意識などのより高次な欲求に移行し、最後は自己実現に向かっていくと考えられています。私の欲求階層説はかなり狂っていて、生理的欲求の中にピアノがあります。私はピアノが弾けるようになりたかった。ピアノが弾ける人は私にとってスターです。一生懸命に習っていたのですが…憧れの先生から破門にされてしまいました。私は先生の言うことも全くきかないために救いようがないと言われてしまいました。先生にとってストレスをかけ続けていたことに気付けませんでした。動物はストレスがかかると、ストレスホルモンであるコルチゾールが分泌され、食欲低下、胃痛、不眠、過覚醒状態になります。

グルグル思考がループします。

先生とのレッスンが楽しかったのは私だけだったんだ…本当はずっと私に教えることが厭で仕方なかったんだ。なのに私は調子に乗って浮かれていました。相手に対する配慮のなさに具合が悪くなりました。もうずっと泣きっぱなしです。

ごめんなさいと自責の念でいっぱいです。

主語は明確にすることが大切です。

「私」がピアノのレッスンをとても楽しみにしていた 。

先生を素敵だと思っていた。それはピアノが素敵だから。

先生の弾くピアノが好きだった。

ここまでの主語は全部「私」なんです。

先生という主語はありません。

私は悲しくて何も手につきません 。

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私のこころは…今日の雪景色よりずっと寒い中にいます。雪は、ほとばしる私の激しさを先鋭化させてくれます。

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この辛さをいつか誰かの為の優しさに変えられますように。

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どうか、自分で挫けたこころを立て直すスキルを養うとともに人から指摘された短所を真摯に受け止められるように。

私自身を自棄にならず大切に出来ますように。img_2043大切な存在を失った哀しみを忘れないこころを

大切にできますように。

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そしていつかもう一度ピアノに立ち向かう勇気が持てますように。そのピアノは悲しみを湛え、今までよりもずっと優しい演奏で私の中のこころの平和となりますように。

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こころの寒さで眠れない夜は、遠くの誰かの幸せを感じることで自分のこころを温めることのできる優しさをもてるようになれますように。

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明日の雪はまだ淋しさの中に待っていてくれます様に。

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独りぼっちの淋しさを抱えたことがあるからこそ、クライエントさんの気持ちに寄り添えるようなカウンセラーになりたい。いくら頑張っても出来ないピアノだけど諦めたり忘れたりしたくない。私の生きていく上で一番必要なものだから。

ピアノの先生なんて星の数ほどいると思うことは出来ない。

そんな考え方になったら私は終わりです。

“Unique One”

代わりなんていません。

今の私は涙で北陸中を融雪出来るかも知れない。

今日は大胆にサボって涙のスプリンクラーを稼働させます。

こころに音楽が流れると止められない

先生のモーツァルトも一緒に流れます。

涙のスプリンクラーは大活躍中です。

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